生成AIで動画を作る前に、利用規約のどこを見ればいいか
社内でAI動画の話が出たとき、確認するのは入力した素材・生成物・契約プランの3つです。最初に見るのはプラン。各社の規約の原文を引いて、法務に渡せる形まで整理しました。
動画制作会社を探していると、AIで作るという選択肢が目に入ります。早いし、安い。ただ、そのまま進めていいのかは判断がつかない。規約を読んでいないことに、あとから気づく。
確認する箇所は3つです。入力した素材がどう扱われるか。生成物の権利がどうなるか。そして、自分が契約しているプラン。
このうち最初に見るのはプランです。順番を間違えると、条文を延々と読んだ末に、いちばん手早い対処を見落とします。
以下、各社が公開している規約の原文を引きます。2026年8月17日時点の記載です。
個人アカウントのまま試していないか
いま社内の誰かがAI動画ツールを触っているとして、それが個人のアカウントである可能性は高い。無料枠か、個人のクレジットカードで契約した月額プランです。
その状態だと、規約はこうなっています。Runwayの利用規約から。
You acknowledge that Inputs and Outputs may be used by the Company to train and improve its AI models, algorithms and related technology, products and services
入力したもの(Inputs)だけでなく、生成物まで対象だと書いてあります。ここでいう学習(training)とは、投げ込んだ文章や画像を、AIの性能を上げる材料として使うことを指します。
さらに、ユーザーは会社に対してその利用許諾を与えたことになります。
you hereby grant to the Company a non-exclusive, irrevocable, perpetual, worldwide, royalty-free, fully paid, transferable, sublicensable right and license to use any Inputs and Outputs
irrevocable(撤回不能)、perpetual(永久)。あとから取り消しを求める権利は残りません。未発表の商品画像や、まだ社外に出していない企画書の図版を、試しに投げ込む場所ではない。
念のため書いておくと、Runwayが特別に厳しいわけではありません。個人向けのプランでは、これに近い条項が並ぶほうがふつうです。
法人プランでは、条項が逆になる
同じ会社でも、契約の種類が変わると記載が変わります。OpenAIのヘルプページは、個人向けと法人向けを分けて書いています。
まず個人向け。
When you use our services for individuals such as ChatGPT and Codex, we may use your content to train our models.
次に法人向け。
By default, we do not train on any inputs or outputs from our products for business users, including ChatGPT Business, ChatGPT Enterprise, and the API.
同じモデルでも扱いが逆になっています。つまり「このツールは企業で使えるか」という問いの立て方が、そもそも合っていない。ツール単位ではなく、プラン単位で見るのが正しい読み方です。
ここまで読んで自社が個人アカウントのままなら、やることはひとつ。法人プランで契約し直す。ツールを禁止するより速く、確実です。禁止しても個人アカウントでの利用は水面下に潜るだけで、そちらのほうが規約上は危ない。
法人契約にしても、消えないものがある
プランを変えれば全部片づく、とはなりません。残るものが2つ。
オプトアウトには穴がある
学習を止める設定は、個人向けにも用意されています。
You can opt out of training through our privacy portal by clicking on “do not train on my content.”
オプトアウトとは、既定で有効になっている設定を、利用者が自分で切ることです。ところが同じページに、こう続きます。
Even if you have opted out of training, you can still choose to provide feedback to us about your interactions with our products (for instance, by selecting thumbs up or thumbs down on a model response). If you choose to provide feedback, the entire conversation associated with that feedback may be used to train our models.
親指のボタンを押した瞬間、その会話は丸ごと対象に戻る。設定を切ったから安全、とはならない。社内に周知するなら、手順だけでなくこの例外まで伝えてください。
生成物は、自社だけのものではない
権利の帰属と、独占性は別の話です。Runwayは所有権を主張しないと明記しています。
The Company does not claim ownership of any of your Inputs or Outputs. Subject to your compliance with the Agreement, the Company does not restrict your commercial use of your Outputs.
商用利用も制限しない。ここまでは発注側に都合がいい。ところが免責条項に、こう書いてあります。
DUE TO THE NATURE OF ARTIFICIAL INTELLIGENCE AND THE SERVICES, OUTPUTS MAY NOT BE UNIQUE AND SIMILAR OUTPUTS MAY BE GENERATED FOR OTHER USERS.
似た出力が他人にも出る可能性を、会社側が先に宣言している。これは契約では消せないので、案件ごとに判断するしかない。
会社案内の背景に流す素材なら気にしなくていい。採用サイトの顔になるキービジュアルなら、撮ったほうが安全でしょう。
引用した規約が、半年で消えることがある
Googleの「Generative AI Additional Terms of Service」を開くと、本文の前にこの注記が出ます。
We updated the Google Terms of Service on May 22, 2024 to cover AI-related topics. As of that date, these Generative AI Additional Terms of Service no longer apply
参照先ごと廃止され、本体の規約に統合されていました。稟議書に「◯◯の規約ではこうなっている」と貼った資料は、こうして無効になる。規約を引くときは、必ず取得日を添えてください。
法務に渡すときの3行
長い規約を全部読む必要はありません。検索する語を決めておけば足ります。
train:入力と生成物が学習に使われるか。Inputs and Outputsと併記されていないかirrevocableとperpetual:与えた許諾を撤回できるかunique:生成物の独占性について何か書かれているか
そのうえで、自分の契約プランの欄を見る。個人向けの記載を読んで法人向けだと思い込む。これがいちばん多い読み違いだろう。
使うか使わないかでは決めない
ここまで読んで「やはり危ないからやめよう」と結論を出すなら、この記事は役に立っていません。規約に書いてあるのは禁止ではなく、制限です。
法人プランに変えれば、入力した素材が学習に使われる問題は既定で消える。残るのは、生成物が自社だけのものだと保証されないこと。だとすれば、切り分けはこうなります。差し替えが利く素材にはAIを使い、差し替えの利かない一枚は撮る。
制作会社に相談するときも、この線引きを持っていくほうが話が早い。「AIは使えますか」ではなく、「この部分はAIで、この部分は撮影で」と言えるかどうかで、返ってくる見積もりが変わります。
この記事でできていないこと
取り上げたのはRunway、OpenAI、Googleだけ。Adobeも確認しようとしましたが、公式FAQの回答が折りたたまれていて本文を読み取れませんでした。読めなかったものを、読めたことにはしていません。
引用はすべて2026年8月17日時点の記載です。規約はこの記事より速く変わります。ここに書いたのは、開くべき箇所の地図だと思ってください。
法務的な助言ではありません。契約の可否は自社の法務と相談してください。この記事は、その相談を始めるための材料です。